「掛け商には、分別あるべし」
家業コンサルタント 瀬川 泰弘 ファミリービジネスコンサルタント
題名を意訳すれば、現金売りでない信用販売、掛売りには十分注意すべしということです。
これは、井原西鶴の「日本永代蔵 巻五」の一文です。あらゆるものを売掛けしても、その人とはあまり親しくならないのがコツだ、とも言っています。売りすぎや回収が甘くならないようにということだと思います。
敷銀つまり内金・保証金を取って物を売るにしても、以前からの残債務がかさんできたら、見切りをつけて捨てるべきである。未練に引かれて取引を継続すると後で大きな損をするのは、先が見えていない欲のためにそうなってしまうのだ。
「算用は合いながらそのかねふさがりて、手まわしがなりがたくなった」つまり、勘定は合いながら、そのかねが焦げついて、キャッシュフローが行き詰った米屋の実例を挙げています。
「商い巧者なる人の言えり。掛銀は取りよきところから集めることなり」と、債権回収のコツまで書いています。
「巻一 二代目に破る扇の風」では、倒産の原因として酒色の害を実例であげています。まるで、元禄版「危ない会社の見分け方」のようです。「日本永代蔵」を読めば読むほど、人間の欲が見えてきて、現代も変わっていないと思ってしまいます。
「温故知新」「昔のことをよく調べて、そこから新しい見解・意義を見出す」という論語の言葉通りですね。
華僑にも商訓が伝承されていると本で読んだことがあります。孫子に「呉越同舟」という故事成語がありますが、その呉と越の時代まで遡ります。「臥薪嘗胆」のエピソードで知られる春秋戦国時代の越王句践の軍師である范蠡(はんれい)が、後に陶朱公と呼ばれる大富豪になったということです。
その商訓が成功法則の秘伝として伝わっているそうです。
「能識人、知人善悪」つまり、「人を見分けよ、人の善悪を見極めれば」勘定を間違えることがない(損失が少ない)。信用取引ではなおさらである。というようなことが書かれています。物的担保より人の信用を重視しているように思います。
取引の規模を大きくするには、掛け商い(信用販売)になりがちですが、リスクも伴います。人に信用を求めるだけでなく、自身の信用も重視したからこそ、世界各地で商売ができるのでしょうね。
天下人になった秀吉に対して、「武士は嫌い」と言い放った博多の豪商、島井宗室にも遺訓があります。乱世の大豪商とは思えない、治世の時代に存続するための生き方を、こと細かく子孫に書き残しています。
その中にも、知り合いとして生涯付き合ってよい人、悪い人を書いています。親しくすべき人として、家業に熱心な人、でしゃばらぬ人、律義な人を挙げています。一方、親しくすべきでない人として、いさかいが多い人、うそつき、大酒飲み、虚飾の人などを挙げています。
与信とは「商品を先に渡して代金は後で回収する、金銭を貸付けるなどの信用供与」とされていますが、その基本は人と人との付き合い方なのかもしれませんね。
「危ない会社」の前に「危ない経営者」、「信用できる会社」の前に「信用できる経営者」がある、ということでしょうね。
堅実に事業を継続するための知恵が家訓・商訓とするなら、それと外れていないか、外れるならそれだけの理由があるか。といったことも、信用を計る尺度になるでしょう。「国法を守るべきこと」は当然のようですね。
「勤めが利の元である。勤勉に家業に励み、おのずから得られるのが、真の利である」「目前の利益のみ考え、投機に走るなどの危険の行為あるべからず」
「倹約してよく働けば、必ず運来るべし」「本当の商人は相手様も立ち、自分も立つことを思うものです」