与信管理コンサルタント 瀬川 泰弘
与信とは
与信とは、信用を相手に与えるということで、掛売り・信用取引によって相手に売掛金が発生し、信用を与えているということになります。そこには信用リスクが潜んでいます。
与信枠とは
リスクを高めないように、一定の枠をはめます。これが与信限度枠といわれるものです。この設定が勘やどんぶりでされると、客観的評価ができません。ただし、長年の勘というのは、案外鋭いですが。
回収あっての販売ですから、不良債権を発生させないためにも、社内管理体制を確立したいものです。
与信管理体制
与信管理規定、与信限度、有事の回収に即応できる債権・契約管理を、管理部門・営業部門連携により社内体制として、確立しておく必要があります。
事前にリスクをコントロールするという発想が重要です。リスクマネジメントは「出たとこ勝負」や対症療法という姿勢ではなく、「前兆現象」・「予兆」の段階でリスクを制御するための手法です。
リスクマネジメントシステム構築のための指針(JIS Q2001)等を参考にして、債権・与信管理システム構築のひとつの方法を考えてみます。
(参考)
与信管理規定策定委員会の設置→与信管理方針の表明→計画策定→
信用リスク分析→評価→信用リスクマネジメント目標→信用リスク対策の選択→与信管理規定作成(はじ
めから作っておいて説明し、前プロセス略するも可)→与信管理規定の実施
→評価(計画の実行性、活動の有効性)→是正・改善→
〔リスクマネジメントサイクルとしてPDCA(Plan―Do―Check―Action)で、品質管理に準じて考えました
が、リスクという性格に合わせたトータル思考も重要です(発見→予知→予防→対処→復旧、組織体質強
化、運用体制重視)。〕
運用の実際(新規・継続)
営業から与信申請(手順による)→審査→与信枠決定→決裁(委員会、社長)
与信管理→与信枠見直し・更新(撤退もありうる)
与信枠の決定方法は色々ある(月商の1割法、総合指数法、販売高予測法、段階的増枠法、売掛能力1割法)。
中小企業の場合、興信所の与信調書等により総務・経理が審査することが多いと思いますが(大企業には審査部門がある)、営業マンが与信のセンスを持って得意先を注視することが必要です。
得意先の情報収集
① 興信所の企業信用調査書を取り寄せる
(株)帝国データバンクの調査書は12項目の構成になっています。企業概要、登記・役員・大株主、従業
員・設備概要、代表者、系列・沿革、業績、取引先、銀行取引、資金現況・不良債権、現況と見通し、決算
書、不動産登記です。参考資料とします。格付けをみても、実際の決定はあくまでも自社です。
②商業登記簿謄本を診る
(ア)資本金
(イ)会社設立年月日(設立間もない会社かどうか)
(ウ)本店、支店所在地の確認 → 不動産登記簿謄本を確認
所在地の土地・建物は自己所有か、担保の有無、額から債務状況把握
(エ)代表者個人の住所地の確認 → 不動産登記簿謄本を確認
所在地の土地・建物は自己所有か、担保の有無、額から債務状況把握
(オ)目的欄(取引の内容が相手方の事業目的となっているか)
(カ)債権譲渡の登記を診る
(平成10年10月1日より、法人の金銭債権について、法務局に債権譲
渡の登記をすれば、第三債務者以外の第三者に譲渡を対抗する事ができるよ
うになった。→〔1〕登記年月日〔2〕債権譲受人の住所・名称〔3〕債権
の総額が記載され、取引先がどこにいくらの債権を譲渡(担保)しているの
かが判る。)
(キ)商号、本店所在地その他の変動はないかを診る
目的、役員が度々大幅に入れ替わっているとか、代表者個人の住所地の不
動産が個人の所有でない、最近住み始めた、或いは実際には住んでいないよ
うな場合、取り込み詐欺の疑いもあるので注意を要する。
③不動産登記簿謄本を診る
(ア)表題部 土地や建物の状況を記載
不動産の時価推定。地価公示価格、地価図等を参考に現在の時価を算出。
取得時期を診る。含み益(含み損)を算出する。
(イ)甲区欄 所有権に関する事項を記載
所有者の氏名、差押え、仮差押え、処分禁止の仮処分、破産の登記、所有権移転の時期や原因(税
務署の差押えは要注意)
(ウ)乙区欄 所有権以外の権利に関する事項を記載
抵当権、地上権、賃借権の設定内容
金融機関が替わった、借入が増えていないか、担保権者に街金が入っていないか、賃借権設定の仮
登記がなされていないか、権利者は不審な個人か得体の知れない会社ではないか。
④決算書を診る(3年分あれば、変化を診られる。あれば、グループ会社も)
(ア)貸借対照表(BS:会計年度末時点の会社の財産状況)を診る
・貸借対照表上の資産の額は、時価を示すものではなく、原則として取得した時の価格(取得価格)で
表わされているれていることに注意(なお、2000年3月期の中間決算から投資目的の有価証券など
の一部の資産について時価評価が義務付けられた)。できるだけ資産を時価に引きなおして検討す
る(取得時期を推定して、不動産、株式などの有価証券、ゴルフ会員権は、どの程度含み益、含み損
を抱えているのかをチェックする)。
・資産、資本に対する負債、とくに借入の比率、売上高に対する借入比率を診る(高いほど、財務内容
は不健全である)。
・流動資産と固定資産の比率を診る。流動資産の比率が大きければ短期間で資金化できる資産が多
く、取引の安全性は高い。
・流動資産と流動負債の比率を診る。流動資産が流動負債を上回る程度では安全性は低いと言える。
(イ)損益計算書(PL:会計年度の会計上の儲け)を診る
・売上総利益(売上高-売上原価)と営業利益(売上総利益-販売費)、粗利益率(売上総利益÷売上
高)が業界の一般的水準よりも高いか低いかをチェックする(営業利益段階で赤字、しかも数年間継
続している場合は要注意で、どうしようと考えているのかが重要)。
・経常利益を診る。経常利益は、営業利益から財務活動より発生した損益(営業外損益)を加味した金
額である。営業外損益で重要なのは「支払利息」である。営業利益が出ていても、多額の借入を抱
え、支払い利息の負担により経常収支でトントンの会社であればまだましかも。
(ウ)キャッシュフローを診る(あればの話だが、視点として重要)
損益計算書によれば黒字であるにもかかわらず、資金ショートにより資金繰り倒産をすることもある。
いわゆる黒字倒産。支払条件と回収条件によっては、キャッシュフロー上売れば売るほどマイナスと
なる売り上げもある。
(エ)粉飾決算も考えられる
粉飾決算の手口としてよくあるのは売掛金、棚卸資産の過大計上である。
また、売掛金、棚卸資産の金額が売上高、総資産と比べて過大な場合、多額の不良・滞留債権の発
生や、過剰在庫、不良在庫を抱えている可能性が高い。提出先に応じて複数の決算書があることも。
⑤借入過多の会社も多いが…
本業では利益を出し営業損益で黒字を計上しているが、過剰な借入による金利、元本の支払い負担
で収支の悪化、資金繰りに苦しんでいる会社は多い。このような会社が存続できるかは、借入のリス
トラができるかにかかる。
銀行等と交渉して金利や支払い時期・支払い回数の見直しなどを達成できるか?売却できる資産が
あるか?現在の金融情勢では余談は許されない。借入先の金融機関の体力リスクマネジメントも必
要といえます。金融機関の与信格付け・信用格付けというのも、金融機関によってまちまちですが、
与信格付け査定のソフトもあるようで、この視点は重要です。(金融庁の金融検査マニュアル、別冊・
中小企業融資編参照。)
流動比率、固定比率、自己資本比率などで安全性を診る事も重要です。
⑥会社の人、物、金、雰囲気?、噂(チェック表を作って、常に注視)
(ア)人のチェックには,経営者と従業員があります。
・経営者が本業に力を入れているか?本業以外の事に傾注しすぎていないか?過去の成功体験しか見え
ないワンマンではないか?後継者は育っているか?経理に明るいか?相談相手がいて意見を聞き入れら
れる人柄か?
・従業員の定着率は?キーマンの退職なかったか?経理部長が辞めたり、外出がちになっていないか?
退職した方に風評を聞いて見るのも一方。
(イ)物(商品、製品、サービス等、要は売り物)のチェック
・取扱商品が市場・時代のニーズにあっているか?扱い方が旧態依然では?
物の流れはスムーズか?仕入先・条件、販売先・条件の変化?在庫に異常はないか?不良在庫にな
っているものは?(これなどは、営業マンの眼力によるチェック以上のものはないでしょう)強気の判断で
過大な設備投資をしていないか?設備の老朽化や遊休化のチェックも忘れずに。
(ウ)金のチェックが一番難しいが最重要
・メインバンクは大丈夫か?メインバンクとの関係は?金利は?手形割引の依存度が高くなっていなか?
(焦げ付きが発生すれば、リスキー)
・手形のジャンプの依頼が来れば、赤信号! (このシグナルでどういう回収策を講じていくか?)
・成因の不審な手形は要チェック(裏書人は?経路は?)融通手形の匂いはないか?
(エ)雰囲気(なんとなく様子が変だ)
・従業員の態度の変化、暗くないか?トイレが汚い?倉庫が雑然としている?
(オ)噂、風評(火のないところに…、当てにならない事もあるが)
・同業者の評価?逃げ腰になっていないか?安値受注?換金廉売?街金?
注意報から警報へ、どのシグナルでどう行動するか (平時の与信管理がものをいう)
民事再生手続きで、手を上げやすくなったという事もいわれています。早く気づき、早めの対処ということ
で、兆候・変化をつかむ営業マンの役割は大きく、それを支える社内協力も必要です。撤退か、続行か、
何れにしても、組織としての対応が必要です。